普段は「ぱれっとコミックス」を読む一迅社の本ですが、今回は「百合姫コミックス」です。じつは百合姫コミックスじたい、私はこの本が初読なのですが。
発売日の前日、池袋のとある書店で見た「お試し用コミックス」で短編の一話を読み、「これはいい!」と感じて購入。最初は、同時発売された林家志弦先生の『ストロベリーシェイクsweet(2)』目あてで「お試し用」を読んでいたのですが…(苦笑)。
いや林家志弦先生の作品も、同人誌中心で活動されていた時代から折に触れ読んでおりますけれども、この方の「脱・ステレオタイプ」的な作品話法というか、「脱・リリシズム」的な百合作品というものはもっと評価されていいと思うのですが。

まあそれは置いておいて、かずまこを先生の作品を。
かずまこを先生の一連の短編群のどこが「いい!」と思ったのかといえば、この作品のメインキャラクターである養護教諭・松本とその恋人・ななおのあいだにある「熱さ」でしょうか。とくに、松本先生の教え子であるななおがとても眩しい存在に思えました。だって、あまりにも松本先生に対する思いがあまりにも真摯すぎるから。「愚直」といいたくなるほどに。
「お試し用」でのエピソードではまだまだななおを軽くいなしているような様子さえ伺える松本先生ですが、松本先生も、ななおが抱く自分に対する真摯な思いに触れて、だんだんとななおの高さまでココロの高さを落としていき、そして松本先生もまた、ななおとともに互いに対する真摯な思いを抱えていくところがこの作品の「肝」のひとつかもしれません。
ななおが持つ松本先生への思いはとても気高くて尊くて、そして怖いものだと私は感じました。でも怖いくらいに感じるからこそ、私も触れてみたくなります。
そういえばこの作品中に出てくる、ななおの松本先生に対する独白、「私は 今も毎日 ひと目惚れを くりかえす」というのがとてもよいフレーズだと思いました。
恋する人というのはそういうものなのですよね。

もうひとりのキャラクターである、教師・花田は、自分が学生のときにななおのように教師を愛して傷ついた経験があるからこそ、ななおの真摯な思いに反発したり、真摯すぎるがゆえに自らが抱えた思いに苦しむななおを助けたり、この作品の中ではかなり動いているキャラクターなのですが、そこが良いと思いました。
花田先生のようなキャラクターがいると、それにつれて物語もどんどん動いていくので。

あとこの短編群の最後のほうでは、ななおが松本先生と一緒に暮らすとか、結婚することまで真剣に考えているわけですが、そういうところに展開していくというのは、「百合」というジャンルならではのことなのかなと。あまり読んだことはないけれど、ボーイズラブではそういう展開にはあまりならない、ですよねえ。
でもこの作品群、まんがの文法的にはボーイズラブの作品とよく似ていると思うのですけども。

かずまこを先生はこの本が初の単行本であり、この作品が商業誌デビュー作とのこと。そう聞くとこの方が持った、初作品に対する緊張感のようなものが作品の端はしから確かに感じられるように思います。
この生硬さが、逆にこの作品群に眩しさを多く与えているのかもしれません。できることなら、今後もこの眩しさが失われないようになってほしいなと思います。