コミティア88イベントレポ編に続いて、こちらでは購入した本のレビューを。

『04』・渚宮(き01a)>小笠原朋子さん作の個人誌第4集。恒例の「小栗くんと小椋さん」シリーズは、これまでよりもさらに抜き差しならないミスリードを誘っているような(笑)。で、小椋さんは料理が苦手、という属性が加わったわけですが、それって、小栗さんとのコンビネーションが上手く行くってことなのでは…?
今回は小栗さんの空回りぶりが楽しいです。
この「ぐりぐら」シリーズは次回で終わりとのこと。描いていて飽きてきた部分も…、とのことですが、好きなものを描き、モチベーションが続くところまで描けるのが同人誌ですから、しかたがないことなのかと。
もう一話は、小笠原朋子先生が(商業誌で)描いてみたかった作品を描いてみる、という企画。今回はアイドルもの。
少女が少年になっちゃうというプロットは、少女漫画だとお馴染みなのか? この作品での「変身前」と「変身後」って、少女のときも少年のときも、どちらのときも中性的に見えるのは意図的なものなのかどうか。
『がありい』・渚宮>こちらは深森あきさん作の個人誌(無料配布本)。絵柄がいつもとちょっと違うなあ、と思っていたら、錦絵に影響されて描かれた画だとのこと。今回の画のような、シンプルだからこそ見えてくる美しさもあるように思います。

『都外から来ました。』・いわしROOM(え03b)>柚月もなかさんと310さんとの合同誌。「各都道府県には一人ずつ、その県の平和を守る戦士がいる」、という設定の世界に生きる3人の戦士。千葉の戦士はギャル系。埼玉の戦士は萌えキャラ(ドジッ娘属性あり)。そして東京の戦士は…。
まず310さん作の埼玉の戦士がすごい。少女が目を伏せて、心の中で「ウザい」「キモい」と言っているのがこんなに萌えるなんて思わなかったです。そんなキャラだけど、ひねくれたところがまったくなくて、たしかにこの娘はみんなに愛されるキャラだなと思います。
柚月さん作の千葉の戦士は、外見ギャル系と取り立てて言うほどでもないかもしれないけれど、やっぱりぱっと見ギャル系っぽく、アホっぽくて、というかほんとにアホじゃないか?この娘は(笑)。東京の戦士へのツッコミ担当でもあるのですが、この娘もたいがいアホな気がします。とくに26ページ。それは盗電だ。怒られるのも当然(笑)。なにより電動の変身アイテムて、リアリティがあるのかないのか(笑)。
じゃあそんな千葉の戦士にツッコまれる東京の戦士って…、埼玉の戦士が言うとおり、たしかにウザキャラキモキャラだと思います(笑)。それでもって、3人の中ではただひとり大人の悲哀を噛み締めてる人でもあるのですが。二足の草鞋を履くことを余儀なくされているみたいだし。東京都を守っているだけじゃあ生活保障されないのか(笑)。
さらに、行動がわけ分からないところがあるし。14ページのネタとか、ヒーローがそんなことをやっても…。意味が分からない(笑)。さらに最後のネタも、せめてスーパーマンのように着替える場所ぐらいどこかつくればいいじゃん…(笑)。
この作品、柚月さんはネタが面白い作品を創られて、310さんは良いキャラを創られているなあという印象です。あくまでもどちらかと言えば、ですが。

『Fetter Maidens』・T-NORTH(ま28a)>北河遊哉さん作の個人誌。北河さん初挑戦の、百合ストーリー作品とのこと。商業誌でも同人誌でも、この方の作品を読んでいると分かるのがキャラ造形の上手さなのですが、この作品に登場するキャラクターも当然、とても造りこまれた魅力的な人物像になっています。
ですが、あえてこのご本で私が推したいのは、作品全体を通して流れている「不器用さ」なのです。
なにが不器用かといえば、まず彩藤(さいとう)さおりと来世鈴音(くるせりんね)というふたりの少女の間に感じられるもどかしさ。もっと楽に距離を近づけられるはずなのに、二人が互いのこころを近づけられない様子が、読む側の心をくすぐります。
そして鈴音に起こる、とあるアクシデントからふたりのこころが一気に近づいていくのですが、その過程もまた不器用で。とくにさおりの不器用さには、読んでいる私も強い共感を持ってしまうほどの、明るい湿っぽさを感じてしまうのです。
なにより不器用なのは、北河遊哉さんがこの作品を描く姿勢なのではないかと感じます。でもこの場合、不器用というのはべつに「下手だ」というような意味とはちょっと違うと思うのです。
北河さんが商業誌で描かれている、『メガミのカゴ』(松本ミトヒ名義)を読んでいただくとわかるかと思うのですが、この方はとても器用に物語を紡いでいく人という印象が私にはあります。イメージとしては、決め球は直球だけど、印象が残るのは変化球、という感じ。
ところがこの作品では、もうひたすら直球しか投げていない。肩も肘もボロボロになろうが構うものか! とでも言わんばかりの直球投げまくりな描き方をされているような。印象としてですが。
でもその直球ぶりが読む側の心を揺さぶります。とくに私の場合、百合とかBLのようなある種極まったジャンルの作品では、変化球よりも直球で押してくる作品に心を揺さぶられるようなところがあるのでそう感じるのかもしれませんが。
読んでいて、とてもウェットで、とても心地よい作品。

この項、この後も続きます。